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召使い
THE SERVANT

VOL.64
 最近、夢の生産者W.ディズニーは生前、FBIの情報提供者だったことが暴露されたが、'50年代のハリウッドに吹き荒れた“赤狩り(マッカーシズム)”でたれ込まれて追放になった一人がジョゼフ・ロージーだった。
 A.ウィンクラーの『真実の瞬間』('91)で、M.スコセッシが彼のモデルに扮していた。不遇のロンドン亡命中の数年後、'60年代に入ってイギリス・ニューシネマの波が起こり、『エヴァの匂い』('62)に次いで翌年撮ったのが『召使い』だった。英劇壇の精鋭ハロルド・ピンターの脚本を得て、人間の深部を抉る硬派のロージー美学を創り上げる。
 有能な召使いとして、青年貴族トニーに雇われたバレット(D.ボガード)は、屋敷の装飾から、身の廻りの世話から、腕を発揮して信頼を得る。風邪を引けば、アスピリンと一緒に、自家調合したクラレット(フレンチ・ワイン)を供しほめられる。カールスバーグ(デンマーク・ビアー)ボジョレーから雪の日の足湯まで、全てに気の利く下僕だったが……
 ある日、バレットが妹と称して愛人ベラ(S.マイルズ)を住み込ませる。クレオ・レーンの甘く気怠い愛の歌をバックに愛撫するトニーと婚約者の間に割って入るベラは、紳士を決め込む相手を誘惑する。
 高慢不遜な縦構造に歪みが入る。----階級差別の国イギリスの社会秩序が崩れゆく様を、主従関係の逆転する中に描いている。つまり、退廃したトニーに向ってバレットが叫ぶ。“ブランデーを持ってこい!”