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醜聞 ―スキャンダル     

VOL.48

 黒沢明監督が松竹で撮った作品に、後の『白痴』('51)の他に『醜聞 ―スキャンダル』('50)がある。
 オートバイを颯爽と駆る新進画家の青江(三船敏郎)は、偶然出会った歌手美也子(山口淑子)とのツー・ショットを雑誌社にフォーカスされる。雑誌は大いに売れ二人は醜聞の渦に翻弄される。
 迫力のドキュメンタリー・タッチで芸術祭賞を得た『野良犬』('49)と、あの世界のクロサワの名をなした『羅生門』('50)に挟まれ、殆ど風評に上らない作品だが、面白おかしく醜聞をデッチ上げるジャーナリズムを糾弾する視点は時代を先取りしている。――他人の私生活を覗いて喜ぶ習俗は昔から変らない。――弁護を買って出た蛭田老弁護士は、善人だが貧乏で弱い性格の男、病気の娘に見抜かれながらも、雑誌社の酒とバクチと金の賄賂に溺れていく……
 クリスマスの晩、安カフェで角瓶(サントリー)を飲み干して自暴自棄の蛭田は、浮浪者の男が、“今年は最低だったが来年は頑張る”と演説するのに鼓舞され、自分も衆人の前で決意する。“来年こそ、来年こそ…”と。そして後がない吹き溜まりカフェの人々の合唱。人間の意地ましくも美しい瞬間、黒沢流の人間賛歌。岐路、薄汚いドブに星が舞い降りる。
 年が明け、遂に娘の死を迎えた蛭田が、意を決して法廷の証言台に立った時、ドブのような男にも星が光って降りた。