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しとやかな獣    

VOL.41

 映画『しとやかな獣』('62大映)は、“一セット・二シーン”の見出しで撮った川島雄三の快作。二間の団地から一歩も出ないカメラが、それ故、立体的で多面的な空間を創る、何と饒舌的か!――60年アンポ直後の高度経済成長の欲望を膨張させていた時代。
 伊藤雄之助の父が指導する詐欺の「家族の肖像」。娘を流行作家の二号にして金を絞り取る。息子は芸能プロの金を使い込み家と女に入れ上げる。母はそれを暖かく励ます。悪びれる事のない自己正当化のき弁は堂々として、その拝金主義振りは色と欲の生活エネルギーに溢れ「今日」をシニカルに射る。
 批評性をもったカメラが、玄関横の格子窓越しに一家をとらえる時、そこは牢獄か動物園だが、皆無頓着だ。最新TVに冷蔵庫、更になめると、棚にはジョニ黒レミードランブイ迄。揃ったグラス類。気分によって、キャビアでハイ・ボールを飲める。
 こんな小悪を手玉にとる大悪(若尾文子)も居て、税務署員の自殺で括るどんでん返し……。
 「数奇の世界は要するに優雅な生活ということ。この映画も一種の優雅な生活と見ている訳」と云い、「偽善」に対して逆説的に迫った川島流「近代狂言集」は謡と音曲、ロックのリズムで更に狂う。
 「これを里程標として、ここから出発しようと思う」と自作を語ったが、この生き急ぎの監督は後二本を撮って翌年、45才でこの世を去った。