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苺とチョコレート
FRESA Y CHOCOLATE

VOL.78
 遠くて遠い国、'62年以来の米の経済封鎖と旧ソ連の援助打ち切りで厳しい状況下のキューバで'93年に作られた唯一の作品が、トマス・ゲティエレス・アレア監督の『苺とチョコレート』。この唯一作品がラテンアメリカ映画祭で賞を総なめにし、'94年のベルリン映画祭で銀熊賞を獲った。
 海の見える丘、コッペリア公園、素顔のハバナの街の描写の瑞々とした明るさ、セルバンテスのピアノ曲が流れるレサマ式ランチの裕福な時間、と同時にあくまで非教条的に楽天的に社会の矛盾を突き、国の旧い体制を攻撃する。やさしい命の通った映画といえる。
 深い文学的知識と繊細で激しい感性を持つ芸術家のディエゴ(ホルヘ・ペルゴリア)は、ハンサムな大学生ダビド(ウラジミル・クルス)を有名なアイスクリーム店コッペリアで誘惑する。「あいつはホモだ。だって苺のアイスクリームを食べているから」とコチコチの共産主義青年(ダビド)は仲間に告げ口し、スパイ容疑で探りを入れる。ディエゴのアパートを二度目に訪れたダビドは「お茶の関係は終わりだ」とジョニーウォーカー赤(スコッチウイスキー)で歓待される。怪しい、禁制品じゃないか!だがうぶな彼には何処の酒か判らない。---二人に奇妙な友情が芽生えるが、同性愛が特別差別視される国柄の上外国で個展を計画するディエゴは、もはやキューバを追放される身だった。
 “芸術性であるということは既に政治的である”と誰かが云ったが、『芸術と政治』という日本人がとっくに忘れた弁証法的命題が、この映画には詰まっている。