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ボイジャー
VOYAGER (HOMO FABER)

VOL.59
 '57年6月のアテネ空港で、苦渋を満面に漂わせて、中年のユネスコの開発技術者フェイバー(S・シェパード)は偶然の運命の重なりに消耗し切っていた。
 ニュー・ジャーマン・シネマの雄V・シュレンドルフの『ボイジャー』('91)は、米・仏・独・希の多国籍製作のギリシャ悲劇仕立てのロードムービーだ。
 全ての事の起りは二ヶ月前の、ベネズエラの空港でヘンキというドイツ男と出会ってから始まる。チューリッヒの大学時代、ヘンキの弟ジョアキムと共にハンナという女性を愛していたが、フェイバーは仕事を選び妊娠させたハンナの元を去った。トイレで昏倒したフェイバーの人生は狂い始める。――数日後、ニューヨークからフランス行きの船上でヒッチハイクをしている美術好きの女子大生サベス(ジュリー・デルビー)に出会い魅かれ合う。アビニョンのプチホテルで結ばれ、フィレンツェでは幸せの絶頂だったが、そこでサベスから父母の名前を聞き動揺する。屋台の酒場で、衝撃のグラッパ(葡萄のカスを蒸留発酵した独特のブランデー)をあおり、“お母さんは君のように美しかった”と20年前を吐露する。二人の車は更に、ハンナと恐ろしい事実の待つ最終地、アテネへと向かう。 
 『ブリキの太鼓』の鬼才シュレンドルフとしては、M・フィレンツェの原作『アテネに死す』を30年も温め過ぎた分、ロマンと叙情に流れすぎだが、ラストで歌うウテ・レンパーの「ケアレスラブ」が深く残る。