top top
top top top











灰とダイヤモンド
POPIOL I DIAMENT

VOL.57
 '45年5月8日、ドイツ軍無条件降伏に調印。解放気分に湧く近郊市で、市長主催の祝賀会に出席する為、亡命先のソ連から戻ってきた共産党幹部シチュカの命を狙うマチェク(Z・チブルスキー)は焦っていた。
 ポーランドの良心A・ワイダ作品『灰とダイヤモンド』('58)は'60年代安保世代に鮮烈な衝撃を与え、その後バイブルになった。――かつて『地下水道』('57)でナチスと戦った祖国解放の戦士が、共産党支配と戦わねばならないという政治的ドグマの中で、テロリストに堕ちた青春と、行き場を失った純粋精神とその死が、苦渋に満ちたレクイエムとして描かれる。
 バーで働く美しいクリスチナとじゃれるマチェクが懐から出した潰れたマグカップが傷口を語る。祝賀会のショーが始まり、かつて共に歌った進軍の歌「モンテカシノの赤い芥子」が演奏される。空になったバーでマチェクと上官のアンジェイは信じあえた昔を語る。死んでいった多くの同志のグラスが燃える。ポーランドの火酒(ウォッカ)が燃やすやるせない追憶の炎だ。
 遂にシチュカを暗殺したマチェク――苛立ち迷う若者と満面に苦渋を浮かべた老勝利者は、傷において一体だ――背後に上がる花火の造形美は人為を超えた美しさ。
 チブルスキーは地下水道の暗闇で眼をやられたマチェクと二重写しで、報われぬ祖国への愛の記念の黒眼鏡のまま、汽車に飛び乗りそこねて死んだ。その死('67)はポーランドそのものの苦渋と挫折の象徴だった。