top top
top top
top











ベティ・ブルー
       =LE MATIN 37.2゜

VOL.29

 先日「ベネックス・フェスティバル」開催の為来日したJ・J・ベネックス監督の3作目『ベティ・ブルー』('86仏)は、原題を『37.2度』といい、最も妊娠可能な、つまり性行為の最高状態の体温をいう。
 海辺のロッジに仮住まいするしがない配管工ゾーグ(J・H・アニグラード)と気紛れな激情娘ベティ・ブルー(B・ダル)の宿命的出会いは、原題どうり肉欲場面の連続で始まる。女の感情の振幅の激しさと男のやさしい感性の行方が悲運な結末を予感させるが、帆船のゆったりした航行やサックス吹きの老人のショット、決して青くない夕空に浮ぶ朱い太陽、そして、夕闇に溶けてゆく、夜に堕ちる波の白――映像(音も)の美しさは瑞々しく、二人に幸福な時を与える。――部屋に転がる各種酒瓶、男は最も興に乗った時、必ず飲るのがテキーラ・ラピト、といって、ソーダとハーフ&ハーフにしたグラスをタオルに巻きテーブルに叩きつけて一気飲みするあぶない酒。(遂先頃迄、街の酒場で良く飲っていた僕らはショットガンと云っていた。)
 偶然、手にしたゾーグの日記に文才を直感したベティの望むものは、その出版とそして妊娠の二つだけ。だが二つ共望みは絶たれ、エキセントリックな愛は遂に発狂し、眼を抉る。あらかじめ全てを判っていた男は女の息を止める。狂気から浄化へ――若きゴダールが撮ったA・カリーナの映画が思い浮ぶ。