Flaneur, Rhum & Pop Culture

「LP時代が来ている!」と、噂を流してやりたい
[ZIPANGU NEWS vol.141]より

LADY JANE LOGO











 先月末にデスクのプリンターが壊れ、紙詰まりやその他を点検して何度調整しても、「プリンターエラーが発生しました。電源をお切り下さい」という文字が表示されるばかりなので、メーカーに電話を入れると、「修理に出して下さい。出張費が7千幾ら掛かります。それにプラス修理費です」と冷たく言われた。確か6千幾らで買ったプリンターだったよなと思いつつ、購入元の大型電気店に一応持っていった。壊れた型番は既に終売していて、同じメーカーのプリンターを店員に勧められた。その時、「OSは何ですか?」「エッ、OSってマックかウインドウズとか言うことですか?」「そうです・・バージョンは?」などと聞かれた。かつかつ受け答えができたのだろうか?
 5月のある日、BS放送の「世界のドキュメンタリー」の中で「スティーブ・ジョブスとビル・ゲイツ」をやってたので録画をしておいた。用語から何からあまりにも知らないので、社会環境を根底から変えた<傑物>二人をちょっと覗こうとしただけなのだが、結果、「オペレーション・システムの略で、パソコン全体を管理するソフトウエアという意味らしいOS」、それと「バージョン」という言葉しか残ってなかった。まるで駄目だ、身体が拒絶反応してるとしか言えない。日頃店ではLPレコードを掛けているのだが、バーテンダー・スタッフがレコード・プレイヤーに針を落とすことは出来ても、オーバーハング、水平バランスから針圧の取り方、アンチ・スケーティング(インサイドフォーススキャンセラーともいう)などトレッキングエラーの調整に関しては、俺以外取り扱かえる者がいないというのにだ。
 1993年暮れの11月、朝日新聞社から「月刊Paso」というパソコン専門誌が創刊された。朝日新聞社は1988年に既に隔週刊誌「ASAHIパソコン」を出していたが、初心者に主眼を置いていたので、業界にも評判が高かった。その年、ウインドウズがパソコンOS進化型を出して話題を作ったりして、今日の急速度処理時代の幕開けを先取りしようと、もっと初心者を対称にしたパソコン入門書を刊行したのだった。斯様な全く興味のないことでも書いていると、記憶の連鎖反応が起こるとみえて、あることが浮かんで来た。
 同じくパソコン誌「EYE-COM」を出していたのはアスキーだったが、アスキーの何人かは「ロマーニッシェス・カフェ」の常連だった。バブルが弾けた時期だったからだろう、彼たちによく訊かれた。「どこか潰れた、又は潰れそうな出版社は知らないですか? どんなに弱小出版社でも構いません」と。うちは当時出版者関係の客が多くたむろっていた。勿論、店がそんな女衒もどきは出来ない。数年後、日本ベンチャー企業の元祖であり、当時時代の寵児だったアスキーの代表、西和彦と来店組派が袂を分かったニュースが流れて、ことの流れを納得するのだった。
 「月刊誌Paso」の編集長になったのは俺の友人だった。森啓次郎は新刊の宣伝費は自分の裁量でやるとばかりに、俺に新刊記念イベント企画を持ち込んで来た。雑誌にはいささかも興味は無くても、<遊びをせんとや生れけむ>、秩序や規則に縛られていては歌舞音曲などできたものではない。後白河法皇が謳い、白拍子、傀儡子、博徒などの流れ者こそ主役が舞い踊り、一も二もなく引き受けた。
 11月24日、出版記念に相応しくも出たくなるかどうかは分からなくても、派手にはなると確信して声を掛けたマンデイ満をディーヴァに、妖しげなパンエイジア・パーカッションのYAS・KAZ、サックスの白尾恭久と強烈ドラムの渡辺健というメンバーに、歌人の俵万智の講演付きという出演メンバーが、編集長森啓次郎の大学の学友が経営する五反田の東京デザインセンターの会場に集結した頃、俺はテレビ朝日のミュージックステーション組みから借り入れた平台抱えて、釘も打てない会場の舞台造りに汗水流していた。4日前に、青山スパイラルホールで観たデレク・ジャーマン監督の遺作映画『ブルー』がずっと脳内に棲み着いていた。エイズの末期状態で盲目にあったデレク・ジャーマンの映画は、ブルー一色だった。深かろうが浅かろうが只ブルーなのだ。サイモン・フィッシャー・ターナーの音楽と自身の思索の言葉が被さって、画面は美の涯か死の淵か、モノクロニズムの画家イブ・クラインのブルー一色に、視聴覚バランスを冒されていたが、この日デザインセンターで脱却した。
 バブルが崩壊して自殺者や逃亡者が日々の新聞を賑わしているというのに、地上げの権化・東京都庁が都民を捨てて新宿西口に建ち、2千人ディスコ「ジュリアナ東京」の芝浦では毎夜日本の明日の白痴が踊り狂っていたと言うから、金と頭は使い道と言ってやりたくなってくる。