Flaneur, Rhum & Pop Culture

独立国を夢見た「夕日と拳銃」のように
[ZIPANGU NEWS vol.138]より

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 先月7月21日、講談社が6月から連続出版している松田優作『探偵物語』DVDマガジンの取材インタビューを受けたのだが、既にVol.01で散々喋った上の2回目だった。本当を言えば厭だが、ここで腐っていては故人に申し訳が立たない。何か別個の話題をと思案した。彼の最後のアルバムとなった、1987年の『D.F.NUANCE BAND』のいわゆるレコ発コンサートのスタートとファイナルのステージを、わが「ロマーニッシェス・カフェ」に決めて旅に出ていったことがあった。自分の手帳と店が発刊していた小冊子を取り出して調べ、その4月28日と5月25日の告知記載誌を見付けて取材現場の「レディ・ジェーン」に向かった。その際、思わず発見したのが、藤崎森久という男の“「レディ・ジェーン」初出勤”の文字だった。
 今年生誕452年を迎えたジョン・ダウランド曲のレコ発コンサートツアーを、リュートの高本一郎と鈴木広志、東涼太、上運天淳市、江川良子のサックス4名で、7月14日〜17日に京都、神戸、大阪とやって来たのだが、台風豪雨の中、大阪公演に手伝いで来てくれたのが藤崎森久だった。
 1996年、彼は中国大連でいきなり60席のイタリアン・レストランを立ち上げて、2年後の1998年には大連一の有名店にのし上げて、直前まで北京、天津で、イタリアン、和食、デリカテッセンなど6軒を持つ有限公司の総経理として、現地でも雑誌に頻繁に取り上げられたり有名人で通っていた。それが何故大阪に仮住まいかと、つぶさに披瀝しかねるが、4歳になる女児が北京で小児性の病気を罹病して、考えあぐねた結果、本人一家は北京を引き上げて、日本で暮らすことに意を決したのだ。子供に生きるのであれば現地の仕事も当然譲った。中国に渡って実に20年の年月が流れていた。俺と彼とは互いの社会的立場がどうなろうと、元経営者と調理人という関係が続いているようで、無理に変容させてぎくしゃくさを生むようなことはしない。俺は万感の思いを込めて平静を装うしかなかった。そして、1998年から請われる形で関わっていった身の思いが改めてあぶくのように浮かんでは消えた。
 1993年8月18日、和食調理人・藤崎は初出勤で店にやって来た。暫くするとウッド・ベースを教えてくれる人を知らないかと言うので、吉野弘志を紹介すると生徒になった。ニューヨークで鮨屋の職人をやっていた時には、当時NY在だった藤原清人に習っていたと言った。たった2年経ったか経たないうちに「海外に支店を出してもらえませんか」といとも簡単に言って辞めていった。一年後、「大連に店を出しましたので遊びに来ませんか」と言った。2年後、俺は相談役のような立場になった。
 1998年、同時に俺は中国琵琶奏者・王暁東の知り合いになっていて、ピアノの佐山雅弘とたまにライブをやっていたので、中秋の名月の頃は中国の国慶節に当たる、俺はすぐさま彼たちを連れていくことを発案した。北京の中国大飯店、大連のスイスホテル、そしてわが「Le Cafe Igosso」に、俺たちより先に北京展開をしていたファンキー末吉らを巻き込んで、初の中国コンサートツアーを敢行した。ところが中国は聞きしに勝る御国柄、何たって騙すより騙される方が悪いという社会だった。男はまだしも、女と来たらてんで歯が立たない。それを知ってか、重要な渉外役には、どんな海外の合資企業も中国人女性をマネージャーに置いている。ジャン・リュック・ゴダールは映画『中国女』を撮ってるくらいで、ファンキー末吉が言うことには、<中国人の男にとって、最良が中国の料理、アメリカの家、日本の女性だが、最悪がアメリカの料理、日本の家、中国の女>だそうな。ちなみに彼の女房は中国女なので真に迫っている。それを何回も味わいつつ、2001年、中村明一の尺八、八木美知依と磯貝真紀の琴のバンド、「CoCoo=虚空」の脱邦楽と言うか、プログレ邦楽音楽に、歌・おおたか静流、ギター・鬼怒無月のソリストを加えたメンバーは、北京のライブハウスのピュアークラブ、コンドミニアムの酒仙公寓、大連のヒルトンホテルに「Le Cafe Igosso」。2006年はヴォーカルの高瀬"makoring"麻里子、ヴァイオリンの太田惠資、タブラの吉見征樹を連れて、中秋の名月と「Le Cafe Igosso 」10周年を、日航ホテル大連で華々しく打ち上げた。日本航空に協賛を願って、有料客を何人か連れていく。宿泊は演奏会場のホテルと提携するのが通常パターンだった。そんなことを藤崎と連携しながらやる訳だが、俺の場合、ところは満州大連、気分は60年代に観たテレビドラマ「夕陽と拳銃」(原作・檀一雄)の日本人馬賊の主人公・伊達順之助気分だった。
 今、公害立国の中国を一方的に責めたとしても、日本はかって聞きしに勝る公害立国、何をか言わん。Igossoは土佐のいごっそう、竜馬と藤崎のいごっそう、いつ又近い日、大陸に帰れることがあるのだろうか!