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黒衣の花嫁
OPENING NIGHT

VOL.76
 乱歩によって火を付けられ、戦後日本の推理(ミステリー)小説界を騒然とさせた『幻の女』の作家ウイリアム・アイリッシュ同時期、コーネル・ウールリッチ名で書いたのが『黒衣の花嫁』で、'67年フランソワ・トリフォーが同原題で映画化した。
 原因不明の連続殺人事件が起きる。殺人犯は端からジャンヌ・モロー(妖艶!)なのだが被害者同士繋がりはない。一人目、コートダジュールのプレイボーイの婚約パーティでビルの階上から突き落とす。二人目、チマチマ生きる女性恐怖症の銀行員に擦りよりアパートを訪ねる。緊張して舞い上がる男への土産はアラク(アニス・リキュール)というイラク酒。彼女の愛するマンドリンがフーガを奏でるドーナツ盤は死へ誘う舞踏曲、そして、毒入り注射の酒がとどめをさす。若手政治家は物置に閉じ込め窒息死、売れっ子画家(シャネル・ドネール)は、弓を引くギリシャの女神となって矢で射止め、五人目を追い詰め目的を完遂するのは、何と刑務所だった。
 ヒッチコックを敬愛したトリフォーの『ピアニストを撃て』『暗くなるまでこの恋を』、遺作の『日曜日が待ち遠しい』の系列になる推理小説を原題にした作品だが、デ・パルマの様にテクニックを労して意表をつく騙しではなく、女主人公の復讐への持続する意志を追い続け、ベッタリと渇いた心情を描いている。つまり、ヒッチコックを投影しながらサスペンスを排している所に評価の低さがあると思うが、大人にならなかった映画少年トリフォーの謙虚さか?いや、失敗作と云うべきか?