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去年の夏突然に
       =SUDDENLY LAST SUMMER

VOL.35

 ブロードウェイの大ヒット劇を、サム・スピーゲルが製作した映画『去年の夏突然に』('59J・L・マンキウィッツ監督)は、T・ウイリアムズの有名戯曲だが、彼自身が内包する作品の主要テーマである様々な性倒錯者、フロイト的リビドの呪縛、そして贖罪といった性的オブセッションが形而上的に緻密化されていて、完成度高く『欲望という名の電車』より、よりウイリアムズ的である。
 物語の核となるセバスチャン(何と神々しい!)は既に死んでいる。幼時、南海の浜で、肉食鳥が海亀の子を食い散らす光景に神の無残を見た彼が、旅先で謎の死――あまりに異様な死に、同行した従姉のキャサリン(E・テイラー)は突発性痴呆症にかかる。息子セバスチャンを盲愛する母ベナブル夫人(K・ヘップバーン)は、彼女の記憶が戻らぬ内に悪しき事実を葬る意図で精神外科医(M・クリフト)を呼ぶ。脳葉手術(ロボトミー)の恐怖と誠意ある外科医の記憶の回復の間で、次第に歪な実像が露呈される物語はサスペンスに満ちている。――広大な屋敷の庭に熱帯雨林が拡がり、かつてそこで、毎夕5時には、この母親複合(エディプス・コンプレックス)の親子は、食肉植物に好物の蠅を与えながら、フローズン・ダイキリを片手に、むせる様な憩いを交感し合っていたのだ……。ウイリアムズ回想録によると、「収入は良かったが映画はひどいものだった。」とあるが、併、彼はひどい神経症病みではあった。