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パラダイス=PARADISE

VOL.14

 1月28日。戦後銀座の一流クラブ「エスポワール」のママだった川辺るみ子さんが逝くなった。彼女をモデルにした川口松太郎の小説「夜の蝶」('57)を映画化したのが吉村公三郎監督。ルパン、アリババ…夜の銀座をカメラがパンする。まり(京マチ子)はバー「フランソワ」のママ。派手で客あしらいが図抜けて旨く、政財界人を友達の如く扱う。だが、京都からおきく(山本富士子)が出店するに及び、時正に神武景気。関西のデパート進出の利権もからんで色と欲の醜い戦いが始まる。――政治家に取り入った組合理事は昇格し、その祝杯の席で出て来たカクテルはパラダイス。ジンにアプリコットを加えた奴だ。“お目出とう”と同時にまりは手の酒を理事の顔にあびせ、グラスを床にたたき割る。好きな男を裏切った男が浴びるパラダイス。
 復員兵で音楽家くずれの女給手配師のモノローグが時代の証人となっていて救われるが、色と欲の無理心中で終える風俗映画だ。
 同じ銀座の夜を描いた大岡昇平原作、川島雄三監督の「花影」 は4年後の‘61年制作される。バーのママ葉子(池内淳子)は吉野桜の舞い散る中、自らの命を閉じ、苦渋のうちに戦後も死を遂げる。
 折りしも所得倍増を叫ぶダミ声が街に流れていた。