真夏のマンハッタンのアパート。女房、子供を避暑に出した男が熱帯夜をもだえて過す物語は'52年にヒットした舞台劇を映画化したB・ワイルダーの「7年目の浮気」('55)、秀逸なコメディだ。
しがないペーパーバック編集者は「中年男性の抑圧された本能」という本を担当するが著書に“結婚7年目に兆しがみられる”とある。女房に“小説と映画の観すぎよ、近頃はシネスコで立体音響だわ”と云われる程の想像豊かな編集者はラフマニノフ2番の世界に入って行く。
二階のM・モンローに会ってしまうと、タバコ一本、酒一杯を躊躇する男も妄想はしとど溢れ病は重く、又もラフマニノフが脳裡を駆け巡る。
モンローを部屋に招き入れての会話、
「何飲む?」
「何でも。一人?」
「う・うん」
「ジンある?」
「そうだな。ベルモットでマティニはどう?」
「素敵!大きなグラス(ビッグトール)で頂戴」
「マティニの大盛り(ビッグトール)ね」。
大きなコリンズ・グラス一杯のマティニを飲んでむせたモンローが続ける。
「砂糖入れて」
「砂糖は入れない」
「どうして?」
「昔から決ってる」
「私の故郷は入れるわ」
「どこ?」
「デンバー」――
この後、男がラフマニノフはおろかチョップスティックで弾くまでずっこけは留まらない。夢見るハード・ボデド氏の舌打ち“タバコに酒、女にチョップスティック!”
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