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ダイヤモンドはダイヤモンドで切る
VOL.98

 去る10月5日、「パリ・ミュゼット」のベル・エポックの香り漂うエスプリも良かったが、目当ては二部の「モサリーニ&アントニオ・アグリ・キンテート」だった。モサリーニはピアソラを“超える”バンドネオン奏者の噂だし、アグリはアルゼンチンのグラッペリと云われ、ピアソラの長年のバイオリニストだった。副題の“A・ピアソラに捧ぐ”も興趣をそそる。
 このヌエボ・タンゴは、風景を逆巻くと思えば風のささやきを、火柱を叩くと思えば鞭のようにしなうバンドネオンに、肌をくすぐる艶っぽいバイオリンが、ダイナミックに又は消え入る様にからみつく。水でできている生物=人間の五感を刺激しながら、絶妙な“間”更に高めるが、日本人的やさしさはない。何せ亡命アルゼンチーナのアグレッシブでアクティブでアバンギャルドの3Aを合わせ持つ過激度なのだ。
 寒イボ(寒い時でるイボ=鳥肌)が背中から後頭部にせり上がり、そしてアンコール局もピアソラ作曲の「アディオス・ノニーノ」に完璧に殺られた。人をそこまで追い込む音楽的犯罪行為に無批判的になりがちではあるが、やはり、奏者としてのみでなかったピアソラの曲が持つ強靭さと迫力に負う所が、多分にあったであろうと思えば…。

(花よりダンゴ)

(1994.9記)