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虎の尾を踏む男たち
VOL.55

 '76年6月「格闘技世界一戦」と銘打ち、立ったままのアリと寝転んだ猪木に終始した格闘技なき格闘技戦は世間の不評を囲った。アリが後遺症の血栓症に悩んでいるその時、明日のスーパースターがモントリオール五輪から登場した。その名はシュガー・レイ・レナード。後、プロに転向した彼は、史上最大規模で催されたハグラーとの死闘に勝ったのを始め、宿敵ハーンズ、不屈のデュラン、ラロンデを倒し、ウェルターからライト・ヘビー級迄五階級制覇を成し遂げ、超人の異名をとる。アリの再来と云われた男はこの時点でアリを越えた。ベルトを置いたまま引退し、挑戦者として復活する不死鳥の男が、ベルリンの壁が崩壊した'89年12月7日にデュランを沈めて14ヶ月振り、最後の試合が2月9日に行われた。10年振りのJ・ミドル級迄身を削っての挑戦だったが―下馬評を裏切る屈辱的な大敗を喫す。―防衛した23才のT・ノリスは「悲しい勝利だ。彼は僕のアイドルだから」とコメントし、34才のレナードは「彼はヤング・レナードだ。これは自分のラスト・ファイトだった」と引退を宣言。勝者は完璧に逆転した。さらば敗れざる80年代(ヒーロー)!

(カシアス内藤)

(1991.2 記)