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君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒
VOL.41

 先日、近所の氷屋さんの爺さんが電車に轢かれて死んだ。常日頃大酒を喰らっては「俺は癌だ、どうせ死ぬんだ」と叫び線路に大の字になっていた。いつもは直前、池ノ上駅なので停止していたのが、朝遅いその日は運良く急行で止まらなかった。自殺未遂に失敗したと云うべきか。孤独の果ての表出行動だ。

 種田山頭火を思い出す。この大酒飲みの自由律の俳人は「最初の不幸は母の自殺。第二の不幸は酒癖、第四の不幸は結婚そして父となった事」と自らを規定し漂白の人となる――「家を出づれば/冬木しんしんと/ならびたり」自殺を何度か試み汽車を止める――「毒薬を/ふところにして/天の川」死ぬことも出来ないで俳句にすがって托鉢する――「しぐるるや/死なないでゐる」昭和11年、死に場所を捜して更に旅に出て永平寺にて「役立たずだからこそ生きろというのですか」と仏に問う。「てふてふ/ひらひら/いらかをこえた」“生と死の闘に現れて、彼の一回きりの生を先に繋げている”句で身心の脱落を観る。「無駄を重ねた一生、それに酒をたえず注いで、そこから句が生きまれたやうな一生だった。」(昭和11年12月14日記)とある。

(プロ・バーテンダー)

(1989.12.1記)