Flaneur, Rhum & Pop Culture

『ええじゃないか音頭』と『大地讃頌』の同時性。
[ZIPANGU NEWS vol.129]より

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 10月20日、オリエンタルホテル広島で「川の町でミーティング」というイベントをやって来た。2009年に立ち上げた企画で、第11回目となる今回は「ええじゃないか音頭・広島版」と題した。去年NHKドラマ『あまちゃん』で、全国現象を起こした大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンドが、まんまバンドを引き継いで、<盆踊り音頭>を「プロジェクトFUKUSHIMA!」で立ち上げ全国に出前を始めたので、広島に寄ってもらったという訳だ。こんなやるせない究極状況の世の中を、『あまちゃん音頭』から『地元へ帰ろう』で走破して気勢を上げようとした。松江が地元の寂寥の歌姫・浜田真理子が来てくれて、まず会場の雰囲気を作っていった。

 あなたは今夜もまた帰らない…あなたが買ってくれた古いミシンで
 今夜もひとり縫う赤いドレス タカタカタ…

と、『ミシン』が聴く人の、特に男の心に痛々しく突き刺さる。『死んだ男の残したものは』こわれた銃とゆがんだ地球 他には何も残せなかった 平和ひとつ残せなかった浅川マキをカバーした曲『夕凪のとき』は、ヒロシマの8月のあのとき。広島の夜にいて思いが勝手に時空を巡る。
 原爆〜核〜原発〜汚染されていく大地と種子、マイケル・カコヤニスの映画『魚が出てきた日』が思い浮かぶ廃していく海。例えば、経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の見直しを始め、大規模太陽光発電所の認定を凍結したと、新聞記事にあった。元々、非協力的な姿勢を見せていた電力会社だった訳で、キナ臭さを思っていると、翌日の新聞に“国土交通省・リニア新幹線認可”の大見出しがあって、大量の電力を使うリニア新幹線には何が何でも原子力が必要で、国とJR東海と電力会社が仕組んだ利権の罠ではないかと、すぐ魂胆が透ける。又、2020年の東京五輪のため国立競技場の聖火台が取りはずされた。巨大な新国立競技場に建て替えるためだが、この1964年東京五輪の<戦後復興の象徴>の聖火台が、宮城県石巻市に運ばれ、展示されるというから笑止の沙汰ではないか。東日本大震災の被災からの<復興>を更に遅らせる次期オリンピックのせいで取りはずされた聖火台を、有難く見るだけで<復興>を考えろと、絵に描いた餅を押し付けているのだ。又、戦争に纏わることに目を向ければ、戦前の慰安婦報道に関わった朝日新聞社の元記者が、右派メディアの攻撃により、教授就任を辞退するはめにさらされたり、「九条の会」に関係する講演会への後援を拒絶する市や自治体が続出する始末、解釈憲法で集団的自衛権をゴリ押ししようとする安倍政権の戦争準備万端振りは、昭和史の代弁者・半藤一利ならずとも、言論封殺「戦争前夜」と言うだろう。これらの記事が新聞に踊っていたある日には「世界で戦争する国アメリカに従う集団的自衛権」のこれ又、大見出し。そんな閉塞状況を人はどう生きようか。「イスラム国」の戦士になるために、シリアに出国しようとした北海道大学生が出現しても、それほどおかしくはないだろう。只、可哀相な奴と言うしかない。
 命はひとつ 人生は一回 だから 命を すてないようにネ
 そうよ 私しゃ 女で結構 女のくさったので かまいませんよ

と、広島のステージは進行して、浜田真理子と大友良英が加川良の『教訓?』を歌い出していた。「日本にいても今年中か来年中に自殺する」と言っていたらしい北大生君よ、そんな甘ちゃん言ってないで、「あまちゃんバンド」観に来いよ。元気をやるから。17歳のパキスタンのお嬢さん、マララ・ユスフザイちゃんが、ノーベル平和賞を受賞して世界を感動に包んでいた時、ノーベル平和賞を数年前に受賞したはずのオバマ大統領は、イラクに続いてシリアを空爆している真最中で、世界は戯曲で出来ていると不埒にも思ってしまう。かって1972年に沖縄返還を実現させてノーベル平和賞を受賞した時の首相・佐藤栄作は、後、核付き日米軍事の裏条約を結んでいたことが発覚して、正体がバレた。それを暴いた毎日新聞記者・西山太吉は、犯罪者として獄に入れられた謎の事件があった。現首相の安倍晋三が、大伯父に当たる佐藤首相のような失態を覆い隠さんがため、特定秘密保護法を制定したとするなら、個人的な思いで統く国民は操られているとしか言えない。
 ステージは最後を迎えて、大友良英&元あまちゃんバンド+浜田真理子に、30名の広島合唱団コール・ビビッドが加わった。

 文明の不安よ 科学の恥辱よ 人知の愚かさよ
 ヒロシマの また長崎の 地の下に泣く…

 広島が生んだ詩人・大木惇夫の世界に発信した絶唱詩『大地讃頌』がたおやかに流れた。
 当然、アンコールは客席を巻き込み、『ええじゃないか音頭』で末世を喝破するのだった。