Flaneur, Rhum & Pop Culture

私の好きなベツレヘムの5枚
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(1) ファースト・レコーディング / ニーナ・シモン
 Nina Simone / Nina Simone (BCP-6028)
(2) レフト・アローン / マル・ウォルドロン
 Left Alone / Mal Waldron (BCP-6045)TOCJ-62013
(3) ジス・イズ・クリス / クリス・コナー
 This Is Chris / Chris Connor (BCP-20)TOCJ-62014
(4) ブッカー・リトル・アンド・フレンド / ブッカー・リトル
 Booker Little And Friend / Booker Little (BCP-6061) TOCJ-62049
(5) ラウンド・ミッドナイト / クロード・ウィリアムソン・トリオ
 'Round Midnight / Claude Williamson's Trio (BCP-69) TOCJ-62037

 1961年、何も知らぬ15歳の少年は、悪友に広島にあったジャズ・バー「PAD」(パド)に引きずり込まれた。8人も入ったら満杯の店なのに新譜1枚の為に大阪に出掛ける偏屈マスターは“ロイク”のバップしか掛けなかったが(故に、ベツレヘムのレコードは当時馴染みがなかった)、ビリー・ホリデイとニーナ・シモンは別だった。ニーナの『禁断の果実』を初めて聴いた。ビリーの『奇妙な果実』とペイペイの俺はこんがらかったが、それが元でベツヘレムのニーナの『ファースト』を知り、収録されている〈アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー〉とビリーのそれを聴き比べたりした。4年前亡くなった友人の葬儀で流す追悼曲に、この〈ポーギー〉と〈ムード・インディゴ〉を入れた。共にさんざ聴いた曲だった。
 大学時代、「ロング・グッドバイ」という戯曲を演出した際、作者のテネシー・ウィリアムスのト書きには、「ジャズのヴォーカルが聞こえる」とだけあり、50年代のアメリカを醸し出し、ジィジィと時計の鳴る汗ばむ部屋で、世間に背を向けた主人公の倦怠と焦燥を表わすのに、クリス・コナーの『ジス・イズ・クリス』から〈サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー〉を選んだ。自画自賛、クリスの嗄れた声がひんやりと舞台を包んだ。
 '75年開店した「レディ・ジェーン」の明け方4時の最後の1枚はマイ・ウォルドロンの『レフト・アローン』だった。〈キャット・ウォーク〉が掛かると、どんな酔いどれも、精神だけはしかとして、ボロアパートの家路を辿ることを強制した。マルの左指は力強く、ジャッキーのサックスは嗚咽していた。この決まりは長く続いたが、'86年、角川映画が「キャバレー」を作った時、『レフト・アローン』のリクエストが急増し、首を傾げていると、「随分前、リクエストしたのまだなんですか!」と黄色い声で叱られた。マリーンが歌うその主題歌は知らなかった。時代の趨勢に依怙地を張ってもと、別の最後の1枚を選び直した。