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VOL.81
 ベトナム戦争への出兵で体験した残虐な数々の悪夢が、10年後の今も襲い苦しめる---雑誌編集長に体験手記を依頼された主人公ハン(安聖基=アン・ソンギ)の傷跡は深い。鄭智泳(チョン・ジョン)監督の映画『ホワイト・バッジ』('92韓国)は、反戦以外のどちらへも依ってない飾り気ない描写、その瑞々しさは心情あふれて心に突き刺す。』'92年東京映画祭で、衝撃と共に、グランプリと監督賞を獲得する。
 帰還後も、周りの奴らは何も変らない。酒と女と自慢話、軍需成金にシーバス・リーガル(スコッチ・ウイスキー)を浴びせられても、只笑っている歪んだハンの‘戦後’は、ピョン一等兵の出現で、更に精神のフラッシュ・バックを激しくする。ピョンの脳神経は殆ど犯されていて短銃を隠し持っている。今だにジャングルを遁走しているのだ。---殺した村人の耳をそぐ。上官を殺し脱走するチョウ上等兵・・・(映画は更に過去に向い)雪に埋もれた廃屋と化したチョウの実家「揚平屋」で出征祝い。席には今は無き戦友の誰れ彼れが並ぶ。法酒(ポッチュ=韓国の米酒)焼酎(ソージュ)眞露(ジンロ)で飲めや歌えやの大騒ぎ、童貞には女に相手させて夜が明ける。全ての悲劇の幕開けでもあった。
 同盟国米軍傘下で、ベトナム戦に加担した第三者国の若者が、命と精神を犯されていく運命を、時制を自在に操る巧みさで、現在的に浮き彫りにするドラマツルギーに真実と映画を感じる。“他の国の軍隊ばかり通った。・・・我々を思うなら、すぐ帰ってくれ”という路傍のベトナム老人の悲しい独白にも、真実を感じる。