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ショート・カッツ
SHORT CUTS

VOL.80
 『M★A★S★H』('70)以来、悉く問題を投げ掛ける監督がロバート・アルトマンである。問題とは、彼にフリークスが多く身内で賛否両論渦巻くということである。
 '94年の新作『ショート・カッツ』は『ロング・グッドバイ』('74)でレイモンド・チャンドラ−・ファンの不評を買い興業も失敗した様に、原作者レイモンド・カーバーのファンを戸惑わせている。9つの短編と一つの詩を素材にしているのだが、短編を繋いで撮る様な凡百の監督ではないので、短編作品として成立していた世界はズタ切りにされ核分裂を起こしているのだ。友達が組み立てたおもちゃを簡単に壊してしまう子供のように、良くも悪くも彼の真骨頂は、懲りない処が凄いところなのだ。
 冒頭、害虫駆除薬を散布する何台ものヘリがロスの上空を覆うハッタリをきかせたシーンで、映画を襲う死のイメージを決定づける---事故で昏睡状態を続ける子供、その死を知らず飲んだくれの夫とよりを戻した加害者の妻はキューバ・リブレ(ラム&コーク)ではしゃぐ。女性の全裸死体を放ったままその川で釣った鱒を肴に、医者と画家の倦怠夫婦宅でクレンダイン(テキーラ)バカルディ(ラム)で乱痴気パーティーをするピエロ夫婦。ナンパした女を突如石で殴り殺す男。娘を自殺追いやった中年女性歌手が、終幕ブラディ・マリ−(ウォッカ&トマトジュース)片手に次第に力強く歌う“人生の囚われ人(プリズナ−・オブ・ラブ)”が、こうして再び死のエピソードで束ねられた8組の家族と自分の“小さな傷(ショート・カット)”を癒しつつも、人生の皮肉と虚ろを諭すように印象的だった。