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オープニング・ナイト
OPENING NIGHT

VOL.75
 長い間お蔵入りしていたが、'88年ニューヨーク映画祭で絶賛された『オープニング・ナイト』('78)は、『アメリカの影』('58)、『こわれゆく女』('75)のN・Y派インディーズの父、ジョン・カサヴェテスの後期の傑作だ。彼が反骨孤高の内に逝ったのは’89年2月だから、最後の公開作品だったということになる。
 有名な舞台女優マートル(ジーナ・ローランズ)は年令的現実を抱える中、老いをテーマにした新作の役作りでそのあまりに露わな虚実皮膜に悩みは深かった。舞台がはねたある雨の夜、“アイ・ラブ・ユー”を連発する熱狂的ファンの女の子がすぐ側で車に跳ねられる。17才だった。元々楽屋や袖で付き人に持たせたセブン・クラウン(アメリカン・ウイスキー) のポケット瓶をグイグイ飲る程酒に依存していた彼女は、この夜を機に益々酒に溺れてゆく。自宅でJ&B(スコッチ・ウイスキー)を煽り酒場をクルージングする。
 演出家(ベン・ギャザラ)、作者(ジョーン・ブロンディ)と常に役作りで争いが絶えず、遂に17才の少女(オンナ)の幻覚を見るようになる。若い生命が老いた躰を叱り責める。ニューヨーク初日の開幕時間、少女の呪縛に囚われたマートルは未だに姿を現わさず裏方は大騒ぎ・・・
 些細なことで脆く崩れたり力強く立ち直る人間の精神を、人との繋がりに描く容赦ない眼差しは、いかにもN・Y派前衛のカサヴェテスの牙城と云った趣だし、最後に一派のピーター・フォークやシーモア・カッセルやピーター・ボグダノヴィッチの特出は信頼感に溢れた人を語っている。