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欲望のあいまいな対象
CET OBSCUR OBJET DU DESIR

VOL.73
 ルイス・ブニュエルの『ビリディアナ』('61)で本格デビューし、同監督の遺作となった『欲望のあいまいな対象』('77)でも主演したフェルナンド・レイが3月9日死去した。このコンビの他作品『哀しみのトリスターノ』『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』も同様、ブルジョワとその依って立つカトリシズムの欺瞞を徹底的にからかい破綻させていく時、初老の男の若い女への肉欲を描いて衝撃的なのだが、そのとき、ブニュエル自身の心象を仮託されたレイのその演技は(三国連太郎と比べてしまう!)見事にいやらしく痛切だ。
 ブルジョワ中年マチュー(レイ)は、従弟の裁判官の宿舎で若い小間使いのコンチータ(何ンとニ女優一役という挑発的なふざけかた!)に一目惚れして、その夜執事に命じる。---「コンチータにシャルトルーズ酒を届けさせろ」「黄色?緑色?」と聞く執事に「緑が刺激がある」と云うと「催淫の効果もあります」と答える---。即ち、夢中になったマチューは、金品を武器にかつ紳士然として忍耐強く迫るが、処女を装おうコンチータは、手練手管を労して一線を越えさせない。かくて、頻発する極左党の爆弾も無関係に、欲望と誠意の老人は、女の無垢な悪意の前に、あわれ道化となっていく。
 初期スペイン時代の鋭い前衛性や、中期メキシコ時代の良質の娯楽性に比べて、晩期フランス時代のこの時期、より確固とした骨組みと古典的な映像に支えられて、より大胆な作為や高尚な皮肉を楽しんでいるようだ。