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さらば、わが愛/覇王別姫
FAREWELL TO MY CONCUBINE

VOL.72
中華電影が世界を震撼している中、中国の歴史、香港の国際性、台湾の制作=徐楓(シューフォン)が組んだ骨太の"汎中国"映画『さらば、わが愛』('93陳凱歌監督)が上映中だ。
'77年、蒼白い逆光が最後の舞台を射す。京劇、覇王項羽と麌姫の有名な"垓下の別れ"が始まろうとしている。項羽役の小樓(シャオロウ)=張豊毅(チャンフォンイー)と麌美人の蝶衣(ティエイー)=張國榮(レスリーチャン)---フラッシュバックで時は'25年、少年二人は養成所で出会う。厳しい訓練の下、女形として躾けられた蝶衣は、舞台と現実を無化する程小樓への愛に陥るが、菊仙(チェーシェン)=鞏俐(コンリー)が現れて関係が拗れる。或る夜、酔客から娼婦菊仙を救った小樓は、難を逃れる為京劇の『貴姫酔酒』を即興で演じ、花瓶の黄酒(ホアンチュウ)を並々と干し婚約を装うが、この黄金の美酒は芝居では終らせない。
婚約の祝宴の夜、動揺した蝶衣は京劇界の黒幕袁(ユアン)に身を委せ、かつて躰を奪われた宦官爺の寝室にあった剣を譲り受ける。京劇の大保護者だった西太后由縁のこの剣は、蝶衣の絶縁状替りの祝品として小樓の手元へ渡るが、自刃に果る迄、何十年にも亘って、蝶衣を象徴する運命の剣として纏わりつくことになる。
一寒村や特権社会を背景にした映像造形力や色彩の象徴的多用や哲学的伝達による東洋神秘(オリエンタリズム)に変って、現代史を正面に捉え、翻弄される男女の愛と裏切りを生々しく且つ黄色い色調で優しく覆ったこの歴史メロドラマに、作曲家趙季平(チャオチーピン)は音楽で生命を吹き込み、少々の欠点を越えて何とも力強いのである。