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第三の男
THE THIRD MAN

VOL.61
 英米仏露が分割支配する戦後の廃虚の古都に消えた男の謎を追って、スリリングな話と流麗な演出が展開するC.リード監督『第三の男』('49)はさぶいぼだ。
 アメリカ人ホリー(J.コットン)がウィーンに到着するや死んだ親友ハリーの葬儀の帰り、英軍少佐(T.ハワード)に誘われ、シュモルカでブランデーヴァインブランド(WEINBRAND)を飲り、怪しげな男爵に呼び出され、かのカフェ・モーツァルトでメランジュ(コーヒー)をすすり、犯罪の匂う溜まり場カザノバ・クラブでハリーの恋人アンナ(ヴァリ)とウィスキー(スコッチ) を飲る、といった導入部で、酒に酔い人に酔い、瞬く間に魔都の仕掛けに嵌っていく只の正直者の三文小説家……
 闇の中で猫が寄っていって靴をなめる――靴の男が犯人で第三の男が――死んだはずのハリー(O.ウェルズ)の顔が灯に浮ぶ。こうした光と影の位置や斜の構図の特異さに、セミ・ドキュメントの極め付けを観る。やがて、ハリーの横流しする水増しペニシリンが大量の死者を生んでいると知ったホリーは、遂に、ハリーとプラウタの観覧車で会う。
 「ボルジア家30年の圧政下に、ミケランジェロやダビンチを生んだ。スイス500年の平和が何を生んだ?ハト時計さ」とうそぶくハリーに、20年の親友関係とアンナへの思慕と、己の正義感で心が揺らぐ。
 カラスのチターはやるせなく詩情を謳い、大地下水道の迷走劇からラストの長い並木道シーンへと――圧巻!