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ブルク劇場
BURG THEATER

VOL.60
 “維納の名匠が世界に築く映画芸術の王座”という'39年封切時のポスター(野口久光画)のキャッチ・コピーにあるのが、ヴィリ・フォルストの傑作『ブルク劇場』('37)だ。声楽家・俳優だった彼が、名作『未完成交響曲』('33)で監督に進出した四作目の作品になる。
 フォルストが愛してやまない維納の19世紀末は、ハプスブルグ家の花の都として芸術、文化の中心だった。
 即ち、精神分析のフロイト、文学のシュニッツラーやホスマンスタール、音楽家のシェーンベルグ、絵画のクリムト達が闊歩するウィーンでも、ひと際気高いブルク劇場(マリア・テレジアが建てた宮廷劇場)の老いた大俳優ミッテラー(ウェルナー・クラウス)はある日、仕立て屋の娘レナと会い、青春を回顧する。孫娘のような年の差の恋が果して実を結ぶのか?
 シラーの『ドン・カルロス』がはねた晩、有名なワインガーデン「カフェ・3・ハウス」(現在の3・メーベル・ハウス)で逢い引きを楽しむ。
 「これは今年のワインのだね?」と聞くと、支配人は「勿論ですよ、ミッテラーさん。音楽をどうぞ!」
 ホイリガ(今年のオーストリー・ワインの意)に酔い、楽隊の弾く甘く悲しい曲「たそがれの維納」に気分は高揚し、老落の勘違いの恋にのめり込む。
 映画の幕開けに劇中劇『ファースト』を演ずるミッテラーは終幕、レニに魂を売ることで、正にファーストの運命となって、身を滅ぼしていくのである。