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ニキータ  NIKITA

VOL.56
 自然の営みに対し、大いなる畏敬と謙虚をキィワードにしたリュック・ベッソンの二つの圧倒的海中映画『グラン・ブルー』('88)と、『アトランティス』('91)の間で撮った同監督作品の『ニキータ』('90)は、全く別の異色作なのだ。
 麻薬づけのストリート・ギャングのニキータ(A・パリロー)は、警官殺しの果て、その素質を買われて政府の女殺し屋へと変貌する。広角レンズを多用したスピード感溢れる映像は、読み書き、歩き方、話術、格闘技の訓練に耐え、やがて暗黒街に潜る迄の前半を一気に観せるが、豹のような凶暴の爪を時として残す、愛を知る女へとも変貌していく。
 23才の誕生日、初めての出所、愛を感じ初めた上司のボブ(T・カリョ)に誘われて一流レストランへ。エレガントで軽やかさを誇るテタンジェ・コントで乾杯した浮き浮きのニキータが開けた贈り物は――拳銃!
「装填してある」「……」
「後ろの某重要人物と用心棒を二発で殺せ。」
 テタンジェ・コントの一杯は殺しのパスポート。悲しいニキータ、ボブにとって愛より任務だ。愛はこわれ、ニキータは殺しの卒業試験を命ギリギリパスする。――スナイパーの腕を上げて行く程、どんどんいい女になっていくのが、切なくて良いのだ。
 フェミニストに独占されることなく、“『ニキータ』観た?”の合言葉をはやらせた若き監督の才能だった。