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脱出   TO HAVE AND HAVE NOT

VOL.53

 “会いたい時に、口笛吹いて”――カバー・ガールだったローレン・バコールはそう云って『マルタの鷹』でハードボイルド・スターを確立したボギーと、初出演ながら堂々と渡りあう。原作はあのE・ヘミングウェイ、脚本はノーベル賞作家のW・フォークナー、そして監督はH・ホークスと云う超強力チームの傑作『脱出』('45)は、当然ながら、台詞が冴えに冴え渡る。
 '40年代、フランス本国はナチスに降伏した直後のヴィッシー政権下、自由フランスの要人の脱出を計るレジスタンス達、睨みをきかすゲシュタポ、釣り船の船長ハリー(H・ボガード)の宿、「マーキー・ホテル」は怪しみの輩の暗躍する拠点――前作『カサブランカ』に状況設定がそっくりなのが面白い。仏領モロッコはカリブ海の仏領マルティニク島に、「リックス・バー」は「マーキー・ホテル」にとってかわるといった具合。
 ナチの秘密警察の取り調べを受けたハリーと謎の女スリム(L・バコール)は帰り際、喉を潤そう酒場に入るが金の無いのに気付く。ハリーに気のあるスリムは、男〈マリーン〉を誑かせてマルティニク・ラムを一本せしめホテルに持ち帰り、ハリーが怒るのを試すが、逆に見すかされてしまう。落胆するスリム、二人を仲々繋げないハードボイルドなフレンチ・ラム。実際にマルティニク産ラムは甘くないのだが……ホーギー・カーマイケルの自作曲「アイアム・ブルー」や「香港ブルース」の弾き語りシーンが往時の現場感覚を印象づける。