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冷血     

VOL.50

 十代で脚光を浴び、「恐るべき子供(アンファン・テリブル)」の異名をとった小説家T・カポーティは、後年ノンフィクション『冷血』('66)で世を震撼させた。当時の米の病んだ社会の恐怖を描いたこの作品を映画化('67)したのは、社会派監督R・ブルックスで、自ら脚本も手掛けた骨太の異色傑作である。
 かつて、ラスベガスの花形歌手だったペリー(R・ブレイク)は出獄後、ムショ仲間のディック(S・ウィルソン)から一万ドルの強盗の誘いの手紙を受ける。映画は、カンザスに向う夜行バスの最終列で、足を投げ出しているペリーの靴底が灯りに浮び上がる所から始まる。――なぜ異常で無意味な惨劇が起ったのか、なぜ、“クラター家がそこにあったから”なのか、事故のように起きたとはなぜか――加害者(ペリー)の悲劇として、チェロキーの両親に剥ぎ取られた愛情を、果てしない悲痛の孤独と自己愛を、共犯者(ディック)への精神的同性愛を検証しながら、被害者と捜査官と加害者自身の持つ時間と空間を縦横にカット・バックする中で、その「なぜ」の全貌がドキュメントされていく。
 過去のオブセッションと、精神の崩壊した小悪党と再開することの不安を抱え、バスはカンザスの州境のターミナルに着く。スタンドで注文したルート・ビアとアスピリンが、悲劇の入り口へのパスポートだった。アスピリンは全てのオブセッションから解き放し、黄金の国で新生活を夢みる妙薬のはずだったのだが……。