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ポート・ワイン

VOL.6

 裏切った妻を殺した男と、英国貴族の夫を殺した女が、海藻と鰯の匂う街・リスボンで出会う。

 映画「過去を持つ愛情」は原作が「昼顔」のJ・ケッセル、監督のH・ベルヌイユと主演のF・アルヌールのコンビは翌'55年、名作「ヘッドライト」を作っている。アマリア・ロドリゲスも酒場の女主人役で出ていて、そうした面でも相当楽しめる。

 彼女の唱うファドの調べが哀しい恋の宿命を暗示する。更に果ての漁師町ナザレの浜で抱擁した後、昔の二の舞いを恐れてポートワインを激飲するパリジャンのD・ジェラン(どうして仏国の二枚目役はこうもじれったく悩み続けるのだろう?)

 女をクロと睨んで執拗に追う英国の刑事を、名優トレバー・ハロードが演っているが、これが実に老獪で良い。彼女の過去を知りたい男が自分に近づくことを知って、ホテルのバーで網を張る刑事の手にはスコッチ・ウイスキー。男の疑惑の沼はますます深く。

 明朝は南米行きの貨物船か刑事の罠に嵌るかの最終章、労咳を病むギターラ弾きの演奏を背にした会話。

「いい曲だ」
「弾き手がいいのよ」
「奴は不幸だ」
「不幸だと美しい曲がひとしお胸に染みるわ」

と、女は夫殺しを男に告白する。カウンターにはポートワイン。流れ者にはご当地酒が良く似合い、卑劣漢には他処でスコッチを飲るしか能が無い。