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葬礼帰りの医者話
VOL.77

 文明の揺籃と云われるメソポタミアよりも5千年も前に、今のベトナムやタイでは、農耕が始まっていて、冬構え用に発明された瓶の中で、醗酵した穀物は酒を産み、酒神(ディオニソス)は呪術や祭祀と共に音や踊りを司った。つまり、1万年以上も前から音は原始宗教として自然界に向けて、或は魂に向けて奏されたと今日推察に易しい。この20世紀に入ってレコードが発明されて、「音楽」は自己疎外された別の商品として生れ変わった。魂としての商品、金としての商品、名声としての商品という具合に増々肥大化し、たった何十何で、音楽に葬られた死を見てきたのか!?
 暮れもおし迫った12月9日、篠田昌已と云う33才のサックス奏者が突然逝った。“本望の死”と彼の姉は語ったがどうなのだろう。“ジャズ(方便として云うが)に殺られた”と思う。彼が遺した「コンポステラ」のフリンジ音楽、「東京チンドン」のファンキーな平明感を幾人が知るのか。池澤夏樹は、地球で一番強くなった人間は死を忘れたふりをする生なので生も死も淋しく薄っぺらと云うが、篠田は死を近づけ過ぎた生だった。
 プルトニウムがボイジャーに熱エネルギーを消費する時、音楽は真三の鼓動を自然界に波動させ、内的宇宙に生エネルギーを供給することが叶わないのか一九九三年。

(お茶の水博士)

(1992.12記)