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流れる水は腐らず
VOL.66

 年賀に壬申元旦(水の兄=9番目の陽)と書いた後、“あの太古にあった大海人皇子が起こした壬申の乱と同じ年ではないか昨年は世界の国々が変動した。いよいよ東京も崩壊し、飛鳥へ都が移るのか”等と、世迷い言を垂れたら、今年90才にして現役のレニー・リーフェンシュタール展が目に入る。
 '32年、既にスター女優だった彼女は、民話のロマンス世界に自然や人間のたくましさを描いた、『青の光』を撮り、監督としても超一流を証明した。ヒトラーの目に止りナチス党大会記録『意志の勝利』('34)の後、'36年のベルリン・オリンピックを『民族の祭典』『美の祭典』に収める。圧倒的に様式化されたモンタージュの美は各賞を総なめした。戦後逮捕。
 '76年スチールカメラに持ち換え、原始的生命讃歌の『ヌバ族』で復活74才各国に訳され絶賛された時、「ヒトラーがいなくても写真(ケッサク)が撮れる」(シュテルン誌)と見出しを書いた記者ピーター・シーレは、「レニの美そのものがファシズムだ」と誉め上げ、何処迄もオブセッションが纏いつく。以後13年、凡百が塗ったり剥がしたりの歴史や政体に拝跪するところなく、海に潜り、自由に撮り続けている。

(猿兵衛氏)

(1992.1記)