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国破れて山河在り
VOL.51

 今年8月、デニス・バンクスというインディアンの提唱で、「聖なるランニング」がヨーロッパ横断に旅立った。生命の尊厳と世界を治癒する為に。―D・バンクスは1968年AIM(アメリカン・インディアン・ムーブメント)を組織し、白人の迫害と収奪に抗し虐殺されて行ったクレージー・ホースやシッティング・ブルの勇敢な魂を引き継ぐ指導者として、1890年騎兵隊の急襲で皆殺しにされたウンデド・ニーを実に80年後の1973年解放した。

 「聖なるランニング」がロンドンを出発する頃、「レクイエム・フォー・ジ・アメリカス」という一枚のCDが出た。崇高な精神や神秘をも持ちながら、白人の文明に追いやられ自尊心を喪失しドラッグやアルコールや自殺へと向うインディアンへの鎮魂と讃歌を込めたアルバムだ。英米の豪華メンバーが自責の念を集結させている訳だが、中でも、死の直前に録音され家族に保管されていたジム・モリソンの詩の朗読は、地の底から聞こえる天使の声のようで身震いを憶える。

 インディアンにとって“一本の草も、一羽の鳥も、一匹の狼も”全てが聖なるもの。ランニングとは、病んだ母なる大地の癒し=ヒーリングであって祈りなのだ。

(メロス)

(1990.10記)