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飛鳥川の渕瀬
VOL.36

 先日、大手出版社を辞めて以来、プツリと世間から姿を消したN氏と6年振に会った。最近、東京の河川を川下から逆のぼって日がな一日を送っているという。小さい川は勿論、殆どが中途で暗渠になって辿るのも至難の技の様だ。故寺山修司風覗き魔に間違えられたり、入間川の方迄遠征すると、幼児殺人鬼かと怪しまれたり結構楽しそうだ。と想うと、世間は何と熱狂に親しんでいるのかと溜息が出る。毎日毎日野球にゴルフの総評論家氏。政治行為のキーワード<けじめ>を左右する熟女の定見ない叫び。政治もトレンディな消費物に過ぎない。何10億円のオペラ「アイーダ」の熱狂に包まれた実物大スフィンクスも300人の兵士も本物の象や虎も、例えばメトロポリタン美術館に無言で眠る当時の草履や衣服や家具や装身具程、息詰まるおののきをくれない。

 河川を辿るN氏の思いは知らねど、地球を辿ると160万年前、ホモ・エレクタスを原人とする謎とロマンに溢れたモンゴロイドは、約2万年前の氷河時代にユーラシアから世界に拡散移住し、隅々迄文化で覆ったが・・・・・1492年一艘の帆船が間違ったインド大陸を発見する迄は。閑、白昼夢。

(先住民ヤマトゴキブリ)

(1989.7.1記)