top top
top top top











訛は国の手形
VOL.34
  先日、“銀の手”と呼ばれる天才ギタリスト、マニタス・デ・プラタが来日した。1921年南フランス生まれの文盲のジプシーは今年68才。――ステージに登場するや戦慄が走る。超絶技巧に裏打ちされた即興演奏は、聴衆との相互緊張の中で果しなく自由に広がり、<祭>へと昂まる。ピカソやダリと親友だったことは有名だが、A・ドロンも彼に敬意を込めて、映画「ル・ジタン」を昔作っている。この映画の中のテーマ曲が、ベルギー生まれのもう一人の天才ジプシー・ギタリスト、ジャンゴへのオマージュだった。

 次いで、81才の巨人バイオリニスト、ステファン・グラッペリが初来日し、当然想いを繋ぐのがこの伝説のジャンゴ・ラインハルトだ。“毎晩彼の演奏に電流が走った”と語るグラッペリは、名前を書くこと、時計を読むこと、手を拭くことを天才に教えたそうだ。この流浪者達が自然の鼓動と豊かさを与えるのは、至上の演奏の代償に、魂の至福と自由と釣り以外何も求めないからなのだろう。国なく、学問なく、数字も記号も持たないこの被迫害の民は、少なからず我ら先進国人より<疎外>から免がれている。

(吉野ヶ里の魏志倭人)

(1989.5.1記)