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蟹は甲に似せて穴を掘る
VOL.9
 かつて、スパイのゾルゲが特高警察に逮捕された時、「日本は蟹だ。もはや日本に盗む機密は何もない」と嘯いた。つまり、「外側は固い甲羅に覆われているが、一端、中側に入ってしまうと、後はグチャグチャのイイ加減だ」と、日本人の警戒と無警戒のチグハグは、スパイにとって天国だったらしい。鋭く突いた一言だと思うが、例えば、政治家の建前と本音などを言うのも唇寒しだが、旧軍隊よろしく自部隊が生き延びる為に他部隊を陥れる様なことは、我が社会のあちこちに夥しい。
 産業と癒着した<文化人>は、プロパガンダに陥り風俗は文化に昇化せず、街に氾濫する。笛吹けば人、舶来に踊り、良質な前衛部分は足を引っぱられて、更に遠くへ行こうとする。
 「やがて、私の時代が来る」と予言したマーラーのエロスと死のグラム音楽だって、内輪もめしている分だけ、そのブームが欧米より20年遅れて今、なのだから。

[考える足]
(1987.4.1記)